With you until the sand falls

With you until the sand falls

時間目一杯


アラバスタ時代のクロコダイルとキャメル

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 アラバスタに英雄ありと言われて随分たつがそれでも暴れる海賊は後を絶たない。

 七武海という肩書きを恐れないのはただの無知なのか己の実力も分からぬ未熟者か、いずれにしても砂漠で使われる砂の力に無法者達は為す術もなく倒れていく。



 レインベースへ戻る途中大きな通りから一本外れた路地、一頭の駱駝を見つけて近寄ると親しげに鼻を近づけてくる。

 周囲の駱駝より明らかに一回りも二回りも大きくクロコダイルに親しげに触れてくるこの動物は間違いなく兄の相棒ショコラだ。

 兄は仕事の都合で予告なく訪れてはすぐに別件が待っているからと顔も見せずに国を出て行ってしまうこともよく有る事だった。

「クロも経営やらなにやらで忙しそうだからね」

 と、物わかりのいいような言動が何やら腹正しく思ったクロコダイルの

「来たらこい」

 の一言で近くによる度にアラバスタに現れるようになった男は半年ぶりにこの砂の国に来たようだ。

「アニキは」

 頭を撫でてやりながら尋ねると向かいの通りを鼻で指す。

 外装からして女性しかも若者向けなのだろうというお洒落で淡く明るい色と可愛らしい飾りつけに目が眩む。どうやらケーキバイキングの店、らしい。

「ここに入ったのか?」

 今も多くの女性が並びカップルの男の方が居心地悪そうに並んでいるこの店に入った事実をあまり受け入れたくないがショコラが頷いたので真実なのだろう。

 キャメルは相変わらずのようだった。




 テーブルも椅子も彼からすれば小さなものばかりだが慣れた様子でソファ席へ案内するとテーブルを2つくっつけ、その時点で

「テーブル3つでも良いかな?」

 という要望に嫌な顔もせずに

「かまいませんよ」

 と答えてくれた女性店員は優秀なのだろう。

「ありがとう」

 そうしてテーブル3つ分に一回目には全種類のケーキを並べその次にはワッフルやクレープにプリン、3回目には特に気に入った物を並べていきテーブルをキチンと有効活用する姿を見て客の1人が小声で呟く「すご⋯⋯」の感嘆と畏怖の入り混じった声もキャメルの耳には入らない。

 決して早食いでもないのに制限時間90分の砂時計は半分も落ちていない状況でこれでは男1人に食い尽くされる勢いだ。

 キャラメルショコラケーキを食べ終わり苺の乗ったレアチーズケーキを3つ、目の前に並べた。

「クロにお土産に買っていこうかな」

 ポツリと零した言葉に

「いらねェ」

 という答えが返ってきて慌てて顔をあげるとキャメルより真っ黒な大男が店の広い通路を狭苦しそうに通ってくる。

「クロ」

 店の中なので控えめなしかし喜びの隠せない声を無視して向かいの椅子を引いて──座面の狭さに諦めたのか元の位置に戻すと少し端にずれたキャメルの隣に座るとキャメルは更に破顔した。

「元気?」

「問題ない」

 兄のこの問いにはあらゆる意味合いがあるがクロコダイルにはちゃんと通じているので言葉とともに一瞥するだけでキャメルは良かったと笑みを浮かべる。

「連絡をしろと言っただろう」

「電伝虫くんの調子が悪くてね」

 店と不釣り合いな男達の会話は気になるだろう耳を傾ける気配もあって下手なことは話すことができない兄弟だと知られて海軍に噂が届けば大問題だ。

 なにせこの男は表向きには死んでいるのだから。

「クロも食べる?」

「⋯⋯」

 差し出されたフォークを無視して端に置かれた一口サイズのタルトを手にとって食べると口にフルーツと生クリームの味が広がる。

「こんなところ一秒だっているのは御免だからな。とっとと出るぞ」

「見てクロ。砂時計は半分も落ちてないんだよ」

 睨みつける弟の視線も意に介さず指差すキャメルにクロコダイルは葉巻を取り出そうとして禁煙の文字に眉を顰めると砂時計をひっくり返した。

「落ちきったら行くからな」

 店内のざわめきに紛れる低い声、それを聞いてキャメルは嬉しそうに頷くとさっきまでの無表情が嘘のように笑顔で食べ始めるのを店員は不思議そうに眺めていたのだった。

 

 

 

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